この記事では、農地の所有権の移転等のために三条許可を必要としない、「利用権設定」について、その詳細を紹介します。
実際に農地の所有権の取得や賃貸借契約を結ぶ場合に、三条許可の申請を行うよりも、利用件設定の申請件数の方がはるかに多いのが現実です。
具体的な例として少し古いデータですが、広島県の三原市における平成24年度の申請件数は次の通りになっています。
- 農地法三条申請
件数 86件
面積 1,771アール - 利用権設定の申請
農地の筆数 1403筆
面積 18,902アール
件数については単位が異なるため、単純に比較はできませんが、面積で見れば10倍以上、利用権設定の申請の方が多いというデータになっています。
それでは、利用権設定というのはどのような制度でしょうか。
利用権設定というのは、農業経営基盤強化促進法という法律において、利用権設定等促進事業として定められています。
農業経営基盤強化促進法の目的としては、効率的かつ安定的な農業経営を営む者に対する農用地の利用の集積の円滑化を図ることです。
具体的にいうと、規模を縮小しようとしている農家と規模を拡大しようとしている農家がうまくマッチングすることで、売買契約若しくは賃貸借契約を締結する条件で、三条許可を申請します。
しかし、両者がうまくマッチングするとは限りません。
そこで農業委員会や市町、農協などの団体(農地利用集積円滑化団体)が協力して、その間を調整することで農地の利用の集積の円滑化を図ろうということです。
ここで、農用地を貸したい、売りたい人を「出し手」、農用地を借りたい、買いたい人を「受け手」ということにします。
利用権設定の流れとしては、次のとおりです。
- 出し手と受け手はそれぞれ、農業委員会に売りたい、貸したい、又は買いたい借りたい旨を申し出をします。
- 農業委員会が市町や農地利用集積円滑化団体と協力して農業地の利用関係を調整します。
- 市町が関係権利者の同意を得て、農用地利用集積計画を作成します。
- 市町が農用地利用集積計画を公告します。
- 公告により貸借や売買が成立します。
上の流れをみてもらえばわかるとおり、農地法の許可は不要で、また利用権の設定手続き等も全て市町が行いますので、手続きが非常に簡単です。
この手続きの簡便さにより、利用権設定申請の方が三条許可申請よりも多くなっていると考えられます。
利用権設定のメリットとしては次のことが考えられます。
出し手のメリット
- 自らが受け手を探さなくてもよく、農地利用集積円滑化団体が農地の受け手と結びつけてくれます。
- 農地利用集積円滑化団体が受け手と賃借料など利用権の設定の条件を調整してくれます。
- 譲渡所得について特別控除が受けれる場合があります。
- 退職の場合、その期間が満了すれば退職は自動的に終了し、確実に返還されます。
受け手のメリット
- 出し手と直接交渉しなくても良い
- 農地利用集積円滑化団体と協議すればまとまった農地について、利用権設定ができ、規模拡大が実現できる。
- 不動産取得税や登録免許制が軽減される場合がある。
しかし、利用権設定は常時受け付けているわけではなく、例えば三原市の場合は、毎年2回です。
2月末または8月末までに、農林水産課へ申請しなければいけません。
東広島市の場合は、受付期間は1月、3月、7月、10月、11月の各1カ月間、年に5回です。
福山市の場合は年3回で、12月から1月末、3月から4月末、8月から9月末の期間です。
このように各市町で異なりますから、それぞれ確認して手続きを進めるようにしましょう。